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とうくろうちそう

討九郎馳走

山本 周五郎

「内蔵允留守」成武堂、1942(昭和17)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,250 字 · 21 页

青空文庫

「はっ、まことにおそれながら」

「いいわけ無用」

だあん! 銃口が火を吹いた。討九郎にはその爆音が主君の叱咤の声と思われた。忠善はまだ煙を吐いている銃を侍臣にわたし、弾丸ごめのしてあるべつの銃を受け取って、ふたたび的を狙いながら云った。

「無骨者で礼儀作法にうといから勤まらぬと申したそうだが、余には余の思うところがあって命ずるのだ、辞退はならんぞ」

「……はっ」討九郎はきっと唇を噛んだ。

「わかったら退ってよし」

叱られたらこうと、考えて来た答弁を口にするひまもなく、討九郎が平伏する頭上で、だあんッ! とまた銃口から火花がはしった。その二発の銃声は、あきらかに忠善の怒りの表明にちがいない、討九郎は一言もなく退出した。

その年は参覲出府にあたっていたので、六月にはいるとすぐ忠善は江戸へ去った。討九郎は馳走番になったものの、はじめから軽侮している役目なので、ともするとばかばかしいという気持がさきにたち、心からお役を勤めるという気が出てこなかった。たとえば、馳走番として大名の宿所へ挨拶に出ると、そのまま帰れるときもあるし、留められて盃を貰うおりもある、そういうときにはしぜんとはなし相手をしなければならない、それも興味のある話題でもあればかくべつだが、相手が大名のことだからはなすことはおよそきまっている。