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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

しかし、孔子がみだりに皮肉をいう人でないことを、彼はよく知っていたので、次の瞬間には、それを自分が讃められる前提であると解した。

「君が、貧にしてへつらわなかったことも、富んで驕らないことも、わしはよく知っている。」

そう云った孔子の口調は妙に重々しかった。子貢は、讃められると同時に、撲りつけられたような気がした。

「それでいい。それでいいのじゃ。」

孔子の言葉つきはますます厳粛だった。子貢は、もうすっかり叱られているような気になってしまった。

「だが――」と孔子は語をつづけた。

「君にとっては、貧乏はたしかに一つの大きな災いだったね。」

子貢は返事に窮した。彼は、今日途々「貧乏はそれ自体悪だ」とさえ考えて来たのであるが、孔子に真正面からそんな問をかけられると、妙に自分の考えどおりを述べることが出来なくなった。

「君は、貧乏なころは、人にへつらうまいとして随分骨を折っていたようじゃな。そして、今では人に驕るまいとして、かなり気を使っている。」

「そうです。そして自分だけでは、そのいずれにも成功していると信じていますが……」

「たしかに成功している。それはさっきも云った通りじゃ。