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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

孔子は、その牛の近くまで来ると、急に立ちどまって、門人たちにいった。

「見事な牛じゃのう。」

門人たちは、牛には大して興味がなかった。しかし、孔子にそう云われて、仕方なしにその方に眼をやった。

「あれなら、大丈夫祭壇の犠牲になりそうじゃ。」

門人たちは、孔子が犠牲を探すために、今日自分たちを郊外に連れ出したのだと思った。で彼等は元気よく合槌をうち出した。

「なるほど見事な牛でございます。」

「全く惜しいではございませんか、こうして田圃に仂かせて置くのは。」

「この辺に一寸これだけの牛は見つかりますまい。」

「お買い上げになるのでしたら、すぐあたって見ましょうか。」

孔子は、しかし、それには答えないで、また歩き出した。そして独言のように云った。

「全く珍らしい牛じゃ。しかし血統が悪くては物になるまい。」

門人たちは顔を見合せた。犠牲にするには、毛色が赤くて角が立派でさえあれば、それでいいとされている。これまで牛の血統が問題にされた例をきいたことがない。何で、孔子がそんなことを云い出したものだろう、と彼等は不思議に思った。

「血統など、どうでもいいではございませんか。