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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

冉有はいささか気味わるくなって歩をうつそうとした。

「わッはッはッ、今度は逃腰か。腹を立てたり、逃腰になったりは、見っともない。もっとさらりとは行かないものかな。」

「それは、私のことか。」

冉有は勇を鼓して云った。

「そうじゃよ。それに、あの磬を撃っている人も同じさ。」

「磬を撃っている人は、今の時世に聖人とも云われているほどの人だ。」

「よっぽと融通のきかない聖人様じゃな。」

「…………」

冉有は、相手があんまり無茶をいうので、すっかり度胆をぬかれて、返事も出来なかった。

「そうではないかな、自分を知ってくれる者がなけりゃ、あっさりすっこんでいりゃいいのに、方々うろつき廻ってさ。ふッふッふッ、時勢を知らないのにも程があるよ。」

「あの先生は……」

「ほう、あれはお前さんの先生か。なるほど、そう聞けば、よう似たところがあるわ。お前さんも、世には捨てられ、世は恋し、という方じゃな。」

「…………」

「世の中がそれほど恋しけりゃ、わがままを云わないで、あっさり誰かに使って貰ったら、どうじゃな。それとも、わがままが云いたけりゃ、奇麗さっぱりと世の中を諦めるか。」

冉有は、すっかり云いまくられて、眼をぱちくりさしていた。