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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

――匡は国境に近い衞の一邑である。

「あの時は、陽虎もずいぶん乱暴を仂いたそうじゃな。」

孔子は、車の窓からあたりの景色を眺めながら、感慨深そうにいった。――陽虎というのは、魯の大夫季氏の家臣であったが、陰謀を企てて失敗し、国外に逃れ、匡に侵入して暴虐を仂いた男である。

「ええ、全く無茶でした。掠奪はするし、婦女子は拘禁するしで、今でもさぞ匡の人たちは怨んでいることでしょう。」

「お前も、その怨まれている一人じゃな。」

「お恥かしい次第です。しかし、あの時はどうにも出来なかったのです。供をするのを拒みでもしたら、それこそ命がなかったのですから。」

「で、お前も一緒になって、何か乱暴をやったのか。」

「とんでもない事です。乱暴をやらなかったことだけはお信じ下さい。私が陽虎のところを逃げ出したことでも、それはおわかり下さるでしょう。」

そんなことを話しながら、間もなく一行は城門を入って、豫定の宿舎についた。

しばらくは何事もなかった。ところが、夕飯をすまして一同がやっと寛ろぎかけたころ、門外が急にざわつき出した。二三の門人たちが、不思議に思ってかけ出して見ると、いつの間にか、塀の周囲は、武装した兵士ですっかり取囲まれていた。