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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
孔子はやはり平然としていた。かなり、永い沈默がつづいた。
子貢は、とうとうたまりかねたように膝を乗り出して、訥りながら云った。
「先生、器というのは、な、……なんの器です。」
孔子は、子貢のただならぬ様子に、はじめて気がついたかのように、かすかに眉をひそめた。
しかし、次の瞬間には、彼はもう微笑していた。そしてちょっと考えたあとで、しずかに答えた。
「瑚じゃな。」
子貢は、「瑚※(「王+二点しんにょうの連」、第3水準1-88-24)」という言葉を聞くと、不思議そうな顔をして、孔子をまじまじと見た。瑚※(「王+二点しんにょうの連」、第3水準1-88-24)は宗廟を祭る時に、供物を盛る器である。玉などを鏤めた豪華なもので、あらゆる器の中で、最も貴重なものとされている。
(瑚※(「王+二点しんにょうの連」、第3水準1-88-24)、――瑚※(「王+二点しんにょうの連」、第3水準1-88-24)――)
彼は何度も胸の中で繰りかえして見た。そして、宗廟の祭壇に燦然と光っている一つの器を思い浮べた。
(器の中の器――人材の中の人材――一国の宰相。)
彼の連想は、次第に輝かしい方に向って行った。