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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
また、もし幸にして、孔子の命がそれで助かるものなら、求道者としての自分の恥辱など、もうどうでもいい、かりにそのために孔子に破門されても、自分は少しも悔いないであろう、とさえ思った。
こうした複雑な感情を抱いて、彼はもう一度室内を歩きまわった。そして、いよいよそれを実行することに決心すると、彼は誰にも知らさないで、そっと門外に出た。
数時間が経った。
他の門人たちは、看護に一番熱心な子路が、行先も告げないで姿をくらましたことを不思議にも思い、心配もした。しかし彼等は、子路が一冊の本を小わきに挾んで、あわただしく病室に飛びこんで来たのを見た時には、一層びっくりした。
「先生、お願いがあります。」
子路は孔子の枕元に近づくと、息をはずませて云った。
「何じゃな。」
孔子は、今まで閉じていた眼を、かすかに見ひらいた。
「お祷り致したいのです。先生の御病気御平癒のお祷りが致したいのです。」
「だしぬけに、何をいうのじゃ。先王の道には、そのようなお祷りはないはずじゃ。」
「あります、あります。現に先生が御編纂になりました周礼の中にもそれがあります。誄の言葉です。爾を天地の神祇に祷る、とあります。