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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
真に道を愛し、道を求むる心、つまり人生を開拓する心があって、はじめて文王の曲がわかるというものじゃ。」
「襄子はあとで先生に弟子の礼をとっていた、という噂をきいたことがありますが、それは、そんな事があってからの事なんでしょうか。」
孔子は一寸苦笑した。しかし、何か思いかえしたように、
「うむ、襄子はなかなか謙譲な人であった。その時も、急に席を下って、わしを再拝したのじゃ。あの気持で、もうしばらく生きていて貰うと、真に古今の名人になることが出来たのじゃがな。」
しばらく沈默がつづいた。孔子は、叔魚、子木、子旗、子羔といったような、四十歳前後の門人たちの顔を、しばらく見まわしていたが、
「わしは、三十歳から四十歳までの間が、今から考えると、精神的に一番苦しんだ時のようじゃ。三十そこそこで、世間からは礼の大家だと云われ、顕門の子弟でわしに礼を学ぶ者も多かったので、自然心が増長しそうになって来た。それに、一方では、自分の修めた学問が、どうやら知識の学問でしかないような気がし出して、不安でたまらない。内心に不安を感じながら、世間的に権威をおとすまいとするほど、いやな気持のすることはないものじゃでのう。