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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
孔子は、その頃、すでに五十の坂をこしていたが、上下こぞって正道を離れているのを嘆いて、仕官の望みを絶ち、ひたすらに詩書礼楽の研鑚と、青年子弟の教育とに専念していた。陽貨としては、孔子が野にあって、厳然として道を説いているのが、何よりも恐ろしかった。で、出来れば彼を自分の味方に引き入れたい、少くとも一度彼に会って、自分が賢者を遇する道を知っている人間であることを示して置きたい、と思っていた。
彼は、使を遣わして、いく度となく孔子に会見を申しこんだ。孔子は、しかし、頑として応じなかった。応じなければ応じないほど、陽貸としては、不安を感じるのだった。
で彼はついに一策を案じ、わざわざ孔子の留守をねらって、豚の蒸肉を贈ることにしたのである。礼に、大夫が士に物を贈った時、士が不在で、直接使者と応接が出来なかった場合には、士は翌日大夫の家に赴いて、自ら謝辞を述べなければならないことになっている。陽貨はそこをねらったわけであった。
さすがに、孔子も一寸当惑した。彼はしばらく豚肉を睨んだまま考えこんだ。
(礼にそむくわけには行かない。しかし、無道の人に招かれて、たとい一日たりともこれを相けるのは士の道でない。