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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

士たる者が、高官の馬車をみて、こそこそと鼠のように逃げるわけにも行かない。孔子は仕方なしに眞すぐに自分の車を走らせた。陽貨は目ざとく彼を見つけて呼びとめた。そしてにやにやしながら、

「多分私の方にお越しであろうと存じまして、急いで帰って来たところです。ほんの一寸おくれまして、申しわけありません。」

孔子は、小策を弄する者にあっては叶わぬと思った。彼は観念して、云われるままに、再び陽貨の家に引きかえした。然し、どんな事があっても、午飯の馳走にだけはなるまい、と決心した。

陽貨は、座につくと、いかにも熱意のこもったような口調で説き出した。

「比類のない徳を身に体していながら、国の乱れるのを傍観しているのは、果して仁の道に叶いましょうか。」

孔子は、陽貨も言葉だけでは、なかなか立派なことを云うものだ、別に逆らう必要もあるまい、と思った。で即座に、

「如何にも、それは仁とは云えませぬ。」

陽貨はこれはうまいと思った。で、すぐ二の矢を放った。

「救世済民の志を抱き、国事に尽したいと希望しながら、いくら機会があっても出でて仕えようとしないのは、果して知者と云えましょうか。