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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
」
こんな言葉がつぎつぎに思い出された。樊遅は、しかし、自分に実行が出来るか出来ないかは別として、言葉の意味だけは、そうむずかしいとは思わなかった。
(違わない、違わない、――何のことだろう。)
と、もう一度彼は首をひねった。そして最後に次の言葉を思い起した。
「8父母に仕えて、その悪を默過するのは子の道でない。言葉を和らげてこれを諌むべきだ。もし父母が聴かなかったら、一層敬愛の誠をつくし、機を見ては諌めて、違わないようにせよ。どんなに苦しくても、父母を怨んではならない。」
樊遅は喜んだ。それはその中に、「違わない」という言葉が見つかったからである。しかし、数秒の後には、彼の頭は却ってそのために混乱しはじめた。というのは、さっき孔子のいった「違わない」と、この言葉の中の「違わない」とは、まるで意味がちがっていそうに思えたからである。後の場合の「違わない」は、第一、父母の存命中のことである。それに、前後の関係から判断しても、初一念を貫けという意味に相違ない。父母を亡くしたあとの「違わない」ということが、それと同じ意味だとは、どうしても思えない。言葉が同じなだけに、彼はいよいよ判断に苦しんだ。