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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

失業の夕

師弟四年ぶりの対面だった。安藤先生は久濶を叙して卒業を祝した後、

「何うだね? 会社の方は」

と直ぐに訊いた。

「いけません」

と堀尾君は頭を掻いた、先生生徒の高等学校時代そのままに。

「面白くないかね?」

「もうやめたんです」

「馬鹿に早いんだね」

と安藤さんは驚いて、

「いつ?」

「一昨日です」

「ふうむ。衝突かい?」

「はあ。しかしそれが正々堂々の陣じゃないんです」

「それじゃ。やめさせられたんだね? やめたというよりは」

「はあ。暗殺されたようなものです」

と堀尾君は早速物語りにかゝった。先生は傾聴した後、

「それは当り前だよ。馬鹿だなあ。同輩なら兎に角、社長と人事課長じゃないか? ノメ/\出て行く奴があるものかい?」

と真剣になった。

「つい油断をしました」

「相手に取って不足はない。しかしそれ丈け痛快にやった以上、覚悟をしないって法はないよ」

「したんですけれど、つい……」

「悉皆打ち壊してしまったね。課長を玄関へ送り出したところまでは徹頭徹尾君の方が勝っていたのに」

「はあ」

「未練が出たんだね」

「つい宜かろうと思ったんです。先方の策に引っかゝったんですよ」

と堀尾君は又頭を掻いた。