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まけないおとこ
負けない男
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页
但し町まで他の土地を踏まずに行けるという程の大家でない。街道筋の金持は兎角粒が小さい。それでも国会議員に四度や五度は出られそうな身代である。堀尾君は東京では一介の学生でも、郷里へ帰ると豪いものだ。親父が大旦那で、長兄が若旦那だから、堀尾の小旦那として、村中の百姓が頭を下げる。出て歩くと応接に遑がない。
もう一通は恩師安藤先生からだった。この人には中学時代の校長、○高時代の教授として一方ならぬお世話になっている。通り一片の恩師でない。大学三年間、教授連中から一向感銘を受けなかった堀尾君もこの先生丈けは豪いと思っている。
先般貴書拝誦、無事御卒業奉賀候。御成績も当○高出身者中随一にて満足に存上候。さて平凡な比喩ながら、これからが社会の大学に御座候。貴君はこゝに於ても上乗の成績を御期待のことゝ存候。この際貴君の御性格を最も能く知る一人として、小生は一言御忠告申上度候。尚○高御卒業の折承わり候に、貴君御両親より受け継ぐ資産十万円有之由甚だ突飛な申分のように候が、その十万円を屑く拝辞し、裸一貫として社会の大学に御入学お勧め申上候。貴書中既に就職面会にて銓衡委員と衝突したるやの箇条有之、小生、有之哉と案を拍ち申候。