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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「今のことを話すから、ゆっくり聴いて行き給え」

「仕方がないね」

と悌四郎君は度胸を据えた。二年前の仇討ちで昨今は頻りに聴かされる。

翌朝、堀尾君は十時きっかりに○○新聞社へ出頭した。

「堀尾です」

と申入れると、受附は昨日充分印象を受けている上に、申渡されていたと見えて、

「木下さんは未だお見えになりませんが、亀田さんがいらっしゃいますから」

と直ぐに出て来て、応接室へ案内してくれた。待つ間もなく、

「社会部の亀田です」

と言って、矢張り中老の紳士が現れた。

「堀尾でございます」

「さあ、何うぞ」

「失礼致します」

と堀尾君は椅子にかけた。初対面の挨拶をする積りだったが、その余地がない。

「社会部の方で働いて戴きます」

と亀田さんは甚だ気忙しい人だった。

「何うぞ宜しくお願い申上げます」

「この社は万事簡便主義で、辞令ってものがありません」

「はあ」

「俸給は帝大出の初任月四十円と定めてあります。会社や銀行よりも安いですが、宜いですかな?」

「結構でございます」

と堀尾君は早速有りついて安心したが、月給が一躍十五円下った。

「その代り成績次第で毎月上る可能性があります」

「はあ」