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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

一体幾らになるんだか分らないなんて月給取はないよ」

「四十円さ」

「それが変だよ。帝大を出て四十円の叩きっ放しなんて相場はない。僕の方なら五十五円でナスが半期に三月つく」

「まあ宜いさ。何うせ足りないんだ」

と堀尾君は諦めが好い。

「君は家からウンと分けて貰ったものだから、そんな呑気なことを言っているけれど、世の中は然うしたものじゃないぜ。月給即ち人格だ」

「極端だね」

「いや。事実だもの。僕の会社なんかでも、月給の多い人ほど好い顔付をしている。あれは人格が顔に現れるんだ」

「そんな理窟があるものか。君は囚われているから然う見えるんだ」

「君こそ囚われているぞ」

「何故?」

「金のことだから黙っているなんてのは昔の思想だ」

と悌四郎君はこの点、親譲りで子供の時から進歩している。金利を計算して見た結果、帝大よりも高商へ志望した男だ。しかし当世には大いに通用する。堀尾君とは竹馬の友だから、常に有効な忠告を与えてくれる。

高等学校時代からの同窓で現在の家主、間瀬君改め清水君も先頃堀尾君が訪れたら、

「久しく見えなかったね。何うだい? 社の方は」

と早速安否を尋ねた。

「つい御無沙汰しちゃった」