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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「信用がないんだね」

「いや。理解はしているんだ。妻も気が勝っている方だからね」

「あゝ、よく出る」

「何だって?」

「よく出るってことさ」

「何が?」

「妻がさ。先刻から細君の吹聴ばかりだぜ」

「ハッハヽヽ」

「しっかりしないと一生下敷だよ」

「もうその傾向が多少あるんだ。支度というのが皆僕のものだからね。先ずこの通り」

と清水君はグルリと後ろ向きになって羽織の紋を見せた。

「何だい?」

「紋が変ったろう?」

「さあ」

「張合がないね」

「だって僕は君の紋なんか見たことがないもの」

「それも然うだろうね。僕は紋付なんか嫌いで着たことがなかったんだから」

「こゝじゃ着せられるのかい?」

「うむ。お父さんは始終御紋付でしたとあって、矢っ張り主計総監の閣下並みさ」

「急に男っ振りが上ったと思ったら、その所為か?」

と堀尾君は小手を翳して相手を打目戍った。

「吹聴じゃないよ」

「分っているよ。郵便屋が来ても自分で取りに出られないんだろう?」

「うむ。あれは学生時代に書留を待っていた癖があるものだから未だによく失策る」

「行儀も好くなったようだね。僕は洋服だから失敬して崩しているけれど」

「この通り有らゆる点で窮命しているんだ。