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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「他人行儀ってこともないんですけれど」

「それじゃ何あに?」

「見識を下げたくないんです」

「豪いのね」

「何うも形勢が悪いな」

「利己主義よ、あなたは。自分ばかり善い子になりたいんですわ」

「自分ばかりって次第でもないんですけれど、男子の体面ってものがあります」

「そんな豪い人が何故態と紙入を忘れて行ったりなさいますの?」

「あれはあなたの入れ智恵でした」

「まあ!」

「ハッハヽヽ」

「それじゃ鞆で二階から飛び下りたのも?」

「もう降参します」

「私、もっと率直な人が好きよ。一日待たせて置いて、カウントが何だのって打算的なことをなさる人は嫌いよ」

と道子さんは昨日の仇討の積りだった。

「そんなに苛めると、僕はもう帰りますよ」

「何うぞ御随意に」

「御機嫌の好い時に又出直しましょう」

「その方が宜いかも知れませんわ」

「それでは」

「本当にお帰りになりますの?」

「はあ」

「それじゃお止めしませんわ」

「しかし来たばかりで直ぐ帰ると、階下で変に思うかも知れませんね」

「いいえ。お出にならないのが御見識なら、直ぐお帰りになるのも御見識の足しになりますわ」

「それでは道子さん」

「お帰りになれるものならお帰り遊ばせ」