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まけないおとこ
負けない男
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页
「ハッハヽヽ」
「オホヽヽヽ」
「道子さん」
「何あに?」
「九月は十日頃ですか?」
「えゝ」
「待っていますよ」
「えゝ」
「本当に」
「えゝ」
と道子さんは頷いた。堀尾君は言外の意味を伝えたのである。無論道子さんにはそれが通じた。大学教育を受けているから、何方も頭が好い。
堀尾君は午後の急行に乗り込んだ。道子さんは堀尾君の駅を急行が停らないと言って侮ったが、鞆も急行まで十ばかり駅がある。その間を奥田君と道子さんが送った。
「巧くやり給えよ。吉報を待っている」
と奥田君が言った。
「贅沢を仰有らずに、オホヽ」
と道子さんが念を押した。
堀尾君は元来なら帰途○○駅で途中下車をして、恩師安藤先生を訪れる積りだったが、今は急ぐ旅で心に委せない。○○市は三年間の高等学校時代を過した土地で、謂わば第二の故郷だ。程なくそれに停車した時、懐しさの余り、窓から首を伸して足らず、プラット・フォームへ下りて見た。支線が二つ分岐するところだから、乗降客が多い。しかし見知り越しのものは一人もいなかった。せめてもと気がついて、弁当を買った。もう発車間際だったから、急いで乗り込むと、狭い入口のところで鉢合せをしたものがあった。