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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

甘かった」

「何を言っているんだい」

「ハッハヽヽ。袴も失敬する。笑うと暑い」

と間瀬君は立ち上った。

「退屈だろう? 毎日」

「うむ。ところで用を忘れていた」

「何だい?」

「家が一軒明くんだよ。君、来るかい?」

「早速だね。まさか岩崎君のところじゃあるまい?」

「違う。あの裏合せだ」

「追い出したのかい?」

「いや、自由意志で何処かへ越すんだ」

「いつ明く?」

「今月中というから晦日だろう。今日差配が知らせて来たんだ」

「丁度好い。何んな家だったろう? 岩崎君の裏というと」

「全く同じだよ。家賃も十五円だ。君のことだから敷金は取らない」

「よし。借りよう」

と堀尾君は渡りに舟だった。

「それじゃ月が改まってからいつでも都合の時に越して来給え」

「何うせ来月だ」

「一人で何うする?」

「婆さんを郷里へ頼んでやってある」

「手廻しが好いね。奥田君の方へももう持ち出してあるんだろう?」

「家を持ち次第さ。雇人丈けじゃ兎角不便で困るからってんだ」

「お嫁さんが来るんだから、綺麗にして置く方が宜いな。畳更えをしてやろう」

「頼むよ。しかしそんなことまで君が世話を焼くのかい?」

「いや、差配が一人専門についている」