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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「オホヽ」

「何うせ待ち序ですから、来年の三月までこのまゝ待っても宜いですよ」

「けれども私、もう結婚しているように思われていますのよ」

「はゝあ」

「この間の郊外散歩の時、見られてしまいましたの」

「同級生にですか?」

「はあ、而も三人よ。揃いも揃ってお饒舌の方ばかりに」

「兄さんだって言えば宜いです」

「言ったんですけれど、オホゝ」

「何ですか?」

「駄目よ」

「何故?」

「私、責められて真赤になってしまったものですから」

「ハッハヽヽ」

「退っ引きさせませんわ。お化粧で分るんですって」

「はゝあ」

「兄さんと散歩をするお化粧じゃないんですって」

「成程」

「よく研究していますわ」

と道子さんはその日も女子大生にあられもない厚塗りだった。頭の好い二人の劃策に失敗はない。堀尾君は清水君を介して、奥田君を動かした。清水君夫婦が仲人で式は年末ということに定った。

或日曜の朝のこと、堀尾君は散髪に行って来て、

「未だかね?」

と婆やに訊いた。道子さんのことだ。

「お手間が取れますよ」

「何故?」

「私なぞじゃあれ丈けお綺麗になるには六十年かゝります」

「何ういう意味だい?」

「年を取り戻して生れ更らなければなりません」