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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

書生は二人だった。小柄なのがブルを曳いて、この間の奴がステッキを持っていた。

「おい/\」

「何ですか?」

「この間言ったのに、君は分らないのか?」

「いつでも吠えるんですもの」

「犬は吠えるのが商売だ」

「此方も商売です」

「何が商売だ?」

「僕は主人の犬を散歩させているんです。それを此奴が吠えるから悪いんです」

と書生が言った時、アレキサンダーは庭の生垣から又一しきり喧しく吠え立てた。

「畜生!」

「咬み殺されるな」

ともう一人の書生がブルの紐を弛めた。

「こら!」

「…………」

「出て行け。諢うから吠えるんだ」

と堀尾君は下駄を突っかけて玄関を出た。その権幕に恐れを為して、小さい方の書生はブルを門から引き出した。

「この犬を縛って置いて下さい」

と大きい方の書生が踏み止まった。

「此方の勝手だ」

「それじゃ咬み殺されても知りませんよ」

「文句を言わずに早く出て行け」

「…………」

「おい!」

「何をするんです?」

「出ろと言ったら出ろ」

と堀尾君は門から突き出した。書生はよろめいて、口惜し紛れに、

「馬鹿野郎!」

と罵った。

「何だ?」

「安月給!」

「待て!」

と堀尾君は追って行って腕を捉えた。