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まずしきひとびとのむれ
貧しき人々の群
宮本 百合子
「中央公論」1916(大正5)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页
彼は、自分の唯一の食料を、
「たふ」
ということだけを知っているので、村の者達は皆何かの祟(たた)りに違いないと云っている。
何でもよほど前のことだけれども、町へ大変御利益(ごりやく)のある女の祈祷者が来たことがあった。そのとき、狒々婆も白痴の孫を連れて行って見てもらうとその女が云うには、幾十代か前の祖先が馬の皮剥ぎを商売にしていたことがあって、その剥がれた馬の怨霊(おんりょう)の仕業なのだから、十円出せば祈り伏せてやるとのことだったそうだけれども、婆にその金の出せよう筈はない。それで、払い落してもらうことは出来ず、またもうそれっきり医者にもかけず、自分でさえ出来るだけは忘れるしがくをしていた。
このような有様で、狒々婆はいやでも応でも食うだけのことはしなければならないので、他家の手伝いや洗濯などをして廻っている。そして、三度の食事は皆どこかですませて、自分の家へはただ眠るだけに帰るので、村中からいやしめられて、何ぞといっては悪い例にばかり引き出されていた。
可哀そうがられるために、自分の年も二つ三つは多く云っているとさえ噂されているのである。
私は、たださえ貧乏な村人のおかげで、ようようどうやら露命をつないでいる婆が気の毒であった。