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にせもの

贋物

葛西 善蔵

「早稲田文学」1917(大正6)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,476 字 · 43 页

青空文庫

かなり長い急な山裾の切通し坂をぐるりと廻って上りきった突端に、その耕吉には恰好だという空家が、ちょこなんと建っていた。西向きの家の前は往来を隔てた杉山と、その上の二千尺もあろうという坊主山で塞がれ、後ろの杉や松の生えた山裾の下の谷間は田や畠になっていて、それを越えて見わたされる限りの山々は、すっかり林檎畠に拓かれていた。手前隣りの低地には、杉林に接してポプラやアカシヤの喬木がもくもくと灰色の細枝を空に向けている。右隣りの畠を隔てて家主の茅屋根が見られた。

雪庇いの筵やら菰やらが汚ならしく家のまわりにぶら下って、刈りこまない粗葺きの茅屋根は朽って凹凸になっている。

「……これかい、ずいぶんひどい家だねえ」

耕吉は思わず眼を瞠って言った。

「この辺の百姓家というものはたいていこんなもんでごいす。これでもお前様たちがはいってピンと片づけてみなせ、けっこうな住家になるで。在郷には空いてる家というものはめったにないもんでな、もっとも下の方に一軒いい家があるにはあるが、それがその肺病人がはいった家だで、お前様たちでは入れさせられないて、気を悪くすべと思ってな」