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にせもの
贋物
葛西 善蔵
「早稲田文学」1917(大正6)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,476 字 · 43 页
七
「早くそこへ気がついて、兄さんに御苦労していただくとよかったんですな。この辺ではとてもこれだけの品物は捌けませんや。やっぱし東京に限りますなあ」
毎日帳場に坐っていても、仕事というものはなくて、このひと月はただ掛物をそちこち持ち歩かせられて日を送っていた老人は、これで一安心したという風であった。
予算どおりの価格に売れると、叔父はその中から二三百円だけ取って、あと全部惣治の儲かるまで貸しておくという好条件であった。叔父はその金で娯楽半分の養鶏をやるというのであった。……叔父は先年ある事業に関係して祖先の遺産を失ってからは、後に残った書画骨董類を売喰いして凌いでいるのであった。
「何しろこんないい話ってない。神様がお前を救ってくれたんだろう」
耕吉は叔父の厚意に感激して、酔って涙ぐましい眼つきをして言った。そして初めて弟に一臂の力を仮すことのできる機会の来たことを悦んで、希望に満ち満ちて翌朝東京へ発った。
七
上野へ朝着いて、耕吉はすぐ新進作家の芳本の下宿している旅館へ電話をかけた。
「僕ね、今度ね、商売に出てきたんだが、……千円ばかしの品物を持ってきたんだが、……だから宿料の点はだいじょうぶだから、四五日君の処へ置いてくれ」