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あしがるほうこう
足軽奉公
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,949 字 · 28 页
五
わたしのように一文飴屋も、こうして暮してゆけるところをみると、これでやっぱりなにかの役には立っているのだろう、みんなが一文飴屋になっても困るが、みんなお奉行さまになってもまた困る、……桶屋も百姓も叩き大工も、自分の職を精いっぱいやって、幾らかでも世の中のお役に立っているとすれば、その上の不平や愚痴は贅沢というものだ、わたしはそう思っているがね」
藤六はそこまで聞いて座を立った。そしてその夜ひとよ、かれの脳裡で一つの風車がくるくると廻り続けていた。……老人の言葉はごくありふれた世間観である。かくべつ名言でもなく高邁な理窟でもない、それにもかかわらず藤六の頭の中では、くるくると一つの風車がいつまでも廻っていて離れなかった。
五
兄妹が信濃のくに高島(諏訪市)へはいったのは三月のことだった。そして間もなく、藤六は世話をする者があって高島藩の足軽に召抱えられた。そのときかれは、妹に向って、
「武士でなければ再び主取りをせぬつもりだったが、少し考えることがあって足軽の扶持をとる、もう暫くおまえも苦労をたのむぞ」
と云った。
汀は兄の気持をどう推し測ってよいかわからず、――やっぱり初めのお考えどおりにはゆかないのだ、そう思って心が暗くなった。