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あしがるほうこう

足軽奉公

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,949 字 · 28 页

青空文庫

人間がなにか一つぬきんでた能力をもっていると、たとえ自分から誇示しなくともしぜんと人の注意を惹くものである。藤六はできるだけ控えめに、いつも人の蔭へまわるように気をつけ、日々の勤めも少し度の過ぎるほど精をだした、そして他人の分まで進んでやるという風で、恪勤というよりはばか律義と嗤われるくらい励み続けた。……本当に足軽なかまの或る者はそう云って嗤い、感心するよりも軽侮した態度で、遠慮もなくかれに仕事を押し付けるのだった。けれどもその一方、かれを「ひとくせある人物」とみる人々も少なくなかった、組頭の長尾甚之允という者がそのひとり、また士分のなかに四五人、なにかにつけてかれを特別扱いにしようとする、それらの人々は、――藤六がしかるべき身分の者であって、なにか深い事情のため足軽に身をおとしている。そういう風に考えたらしく、時にはうちつけにそう質問されたことも二度や三度ではなかった。

「あの男をばかにしてはいかん」

長尾甚之允はよく組下の者にそう云った。

「……あれはきっと素姓卑しからぬ男だ、必ず一芸一能に秀でている人物だ、みんなもっと労わってやらなくてはいけないぞ」