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てんき

転機

伊藤 野枝

「文明批判 第一巻第一号、第二号」1918(大正7)年1月、2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,656 字 · 67 页

青空文庫

M氏は日が暮れてからも、長いこと話していた。夫婦が辞し去ってから、机の前に坐った私は、暫くしてようやく興奮からのがれて、初めて、いくらか余裕のある心持ちで考えてみようとする落ち付きを持つことができた。けれど、その沈静は、私の望むような、批判的な考えの方には導かないで、何となく物悲しい寂しさをもって、絶望的なその村民達の惨めな生活を想像させるのであった。私の心は果てしもなく拡がる想像の中にすべてを忘れて没頭していた。

「おい、何をそんなに考え込んでいるんだい?」

よほどたってTは、不機嫌な顔をして、私を考えの中から呼び返した。

「何って先刻からのことですよ。」

「なんだ、まだあんなことを考えているのかい。あんなことをいくら考えたってどうなるもんか。それよりもっと自分のことで考えなきゃならないことがうんとあらあ。」

「そんなことは、私だって知っていますよ。だけど他人のことだからといって、考えずにゃいられないから考えているんです。」

私はムッとしていった。どうにもならない他人のことを考えるひまに、一歩でも自分の生活を進めることを考えるのが本当だということくらい知っている。