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さかやのワンこう

酒屋のワン公

小川 未明

「童話文学」1928(昭和3)年7月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,017 字 · 6 页

青空文庫

けれど、雨は、容易にやみそうもなく、青い電の光は、身のまわりを縫うようにひらめき、すぐ頭の上では、いまにも落ちそうに雷が鳴ったのです。彼は、めったに、こんな怖ろしいめにあったことはなかったのでした。

「ワン公、どうだ。主人ににらまれるのと、どっちがこわい?」と、暗い、御堂の内から、声がしたような気がしました。

彼は、じっと自分をにらむ、意地悪そうな主人の目を思いうかべました。また、自分を犬の歩きつきに似ている、といってあざ笑う近所の子供たちの顔を目に描きました。すると、この自然の怖ろしさは、さすがに公平であるというような気がしたのです。なぜなら、自分ひとりが怖ろしいのでない。しかし、主人の目は、ひとり、自分にばかり注がれているように考えられたからです。彼は、公平な神さまに向かって訴えたなら、あるいは、自分の願いを聞いてくだされないことはないという気がした。

「神さま、どうぞ、私をお助けくださいまし。」と、彼は、答えるかわりに、暗い、御堂の内に向かって手を合わせて拝んだのです。

いつしか、雨は、小降りとなり、雷はだんだん遠くへ去ってゆきました。

野中を流れている小川には、水がいっぱいあふれて橋の上を越えていましたから、どこが道だかわかりませんでした。