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のわき

野分

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页

青空文庫

ごめんあそばせと羽折をひっかけて、お紋はいそいそと出ていった。……酒と肴が来て、お紋が燗をつけ酌をして遠慮のないうちとけた酒になった。老人とお紋との意気の合ったもてなし、する事の端はしに心の籠った、胸のすくような小とりまわし、それは貧しい席をこのうえもなく豊かに、温かくし、どんなに奢ったものよりも楽しく感じさせた。又三郎のいかにも気にいったようすを見て、お紋もたいそう嬉しそうだった。

「お店へいらっしゃるといつもこわいお顔で、そのくせ寂しそうにとぼんとしておいでなさいますのに、きょうはたいそう御機嫌がおよろしいんですね」

「いつもこうして呑めたらな」又三郎はしみじみとこう云った、「……いちにち汗をかいて稼いで、さっぱりとひと風呂あびて、こうやってらくらくと坐って、爺さんやお紋とこうやって気楽に呑めたらと思うよ」

「冗談じゃありません、毎日そんなことをしていたひにゃあ飯の食いあげでさあ、働きざかりのそれこそ腕っこきの職人でも、酒を毎日のめるなんてえ者あ広いお江戸に数えるほどしかいやあしません、はたでごらんになるとは段違いに、それはまるっきりしがねえものでございます」