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のわき
野分
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页
と云ってそこへ拡げたのを見ると、羽折から小袖へかけて、背中のところが斜めに五寸ばかり斬裂かれていた。丈右衛門はもちろんのこと、みんな色を変えて、彼の背中へまわった。
「お膚は大丈夫でございますか」「おけがはございませんか」「いちおうお躯を拝見いたしましょう」
又三郎は黙って手を振り、さっさと着替えをしてしまった。どこで斬られたろうと考えてみたが、まるでわからなかった、おそらくあの小男に躰当りを呉れたとき、後ろから抜き打を入れられたに違いない、――一瞬の差だった。そう思ったが、実感がないのでかくべつなんとも感じなかった。彼はその夜、滑稽なほど厳重な宿直の人数に護られて寝た。
朝は暗いうちに起こされた。風呂に入り、月代を剃り、髪をあげ、丸に九耀星の家紋の付いた熨斗目麻裃を着せられた、彼はなにも云わず、人形のようにされるままになっていた。支度はばかばかしく入念だった、丈右衛門が付きっきりで、そこを此処をといじりまわした。それが終ると上段の間に導かれ、上屋敷から来た老職と会った。すべては「親子対面」の手順であるが、彼には興味も必要もないので、躯をそこに置く以外はなにも見ずなにも聞かずに過していた。