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のわき

野分

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页

青空文庫

それでかなり酔いが出たのだろう、歩きだすとちょっとよろめき、往来のまん中に立止ってぐいと向うを睨んだ。

「べらぼうめ、江戸っ子だ」

老人は気張った声でそう呟いたが、そのとたんにぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。それを拳でじゃけんにこすり、ふらふらと歩きはじめたが、居酒屋があるとはいり、酒屋があると立呑みをやった。そして「べらぼうめ、江戸っ子だ」と、同じことを繰り返しては涙をこぼした。

徳右衛門町の裏長屋へ帰ったのは、もう灯がついたあとだった。泥酔した老人は、上へあがるにも孫娘の手を借りなければならなかった。まるで毀れた木偶のように、ぐたぐたとそこへ、しだらなく躯を投げだした藤七を見て、お紋は暫く途方にくれるばかりだった。

「お祖父さんどうしたの、いったい、こんなに酔っちまって、途中が危ないじゃないの、若さまにはお会いして来たんですか」

「会って来たよ、ああ会ったとも」老人はよくまわらない舌でそうどなった、「なにが若さまだ、ちえっ、あの銀流しめ」

「お祖父さん、おまえ寝言を云ってるのね、そんなに酔って、失礼でもあったんじゃないんですか」

「おらあ酔ってるよ、おめえの見るとおり泥亀のように酔ってる、……なにょう云やあがる、町人になるのはやめた、お紋を妾によこせ、それだけの前金を渡してある、……そんなちょぼ一があるか、若さま