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のわき

野分

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页

青空文庫

、……聞いてるのかお紋、妾だ、妾だぜ、それからこのおれも一生飼い殺しにして呉れるとよ」

「あんまりだお祖父さん、そんなこと、若さまがそんなことを」

「云ったんだ、そればかりじゃあねえ、おれが返辞に困っていると、いざを云うとでも思ったんだろう、これまで酒肴代として渡してある金はしめてこれこれになる、口では云わないがあれはその手付の積りなんだ、手付を受取った以上いなやは云わせない、五六日うちに迎えをやるから支度をして置け、……こうだお紋」

「よして、もうよして、お祖父さん」お紋は袂でひしと面を掩い、はげしくかぶりを振りながら叫んだ、「……本当とは思えない、お祖父さんが云うのでなければ、あたしにはとても本当とは思えないわ、でもよくわかってよ、人間なんて、人間の心なんて、いざとなってみなければ知れないものね」

「おれがどんなに、どんなに、辛いか、おまえにそれがわかったらなあ……」老人はこう云うと再びそこへ俯向けに倒れ、腕の上へ顔を伏せてしまった、その腕はたちまち老人の眼から溢れ出る涙のために、濡れていった。

「泣かないで、お祖父さん」お紋は片手を伸ばして藤七の背をしずかに撫でた、「……あたしなんかなんでもなくってよ、それよりお祖父さんが可哀そうだわ、あんなに気が合っていたんだのに、あんなに楽しそうに呑んだり話したりしてい