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のわき

野分

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页

青空文庫

た。植木畑はひまな季節なので、職人も常には二人ほどしかいず、それさえ外出がちで、家のまわりは毎もひっそりしていたし、たまに話し声がすると思って見ると、三町も向うの田道をゆくもの詣での人だった。……お祖父さんのいない昏れ方など、しんとした家の中で行燈へ火を入れながら、お紋は茫然と手を休めたまま、よく独りで泣いたものだ、もとの長屋の人々を想って、もうひとり、あまりにむごく裏切った人を想って。

雪と霜と、暴あらしい風と、荒涼と枯れた眺めのなかで、冬を越した。そして春となったが、お紋は笑うことの少ない沈みがちな娘になった。藤七はいたましげな眼で、脇のほうからそのようすを見やっては、溜息をついた。慰めようともし、明るくなるようにもしむけてみた。然しそんなことがなんの役にも立たないことは、老人にはよくわかっていたのだ。時が経てば。それだけが頼みだった。――時はすべてのものを癒やして呉れる、どんなに深い悲しみも苦しみも、やがては忘れる時が来るだろう、ましてお紋は若いのだ、若さというものは、それだけでどんな痛手をも癒やすちからを持っているのだから。……仕事の動きだす季節になった。