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こんじきのし

金色の死

谷崎 潤一郎

「東京朝日新聞」1914(大正3)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 页

青空文庫

七

に対して抱いて居た滑稽の感じが消滅して了う。寧ろ斯かる残虐の殺人を敢てしたアキレスの方が憎らしくなる。いかに容貌醜悪なテルシテスと雖も、我々と同じ人間である以上、憐愍の情を起さずには居られないと云う議論なんだ。けれども僕の考えでは、滑稽な人物は何処迄も滑稽で、奇怪な死に様をすればする程猶更面白い気がするじゃないか。生きて居てさえ可笑しなテルシテスの顔が滅茶々々に叩き潰されて血だらけになって蠢いて居る所を想像すると、実際滑稽に思われるじゃないか。文学を批評しながら道徳的の感情に支配されて、アキレスが憎らしいなどゝ云うのは馬鹿な話だ。」

「君の説く所はどうも少し病的のようだ。仮りにそのような残酷な描写が詩でなくって絵に画かれたと想像して見給え。君はそんな絵を見てもやっぱり滑稽を感じるのかね。」

私が斯う反問すると、彼はいよ/\得意になって、議論の歩を進めます。

七

「滑稽を感じないまでも、或る一種の快感に打たれる事はたしかだね。寧ろ絵にした方が面白いくらいだね。一体芸術的の快感を悲哀だの滑稽だの歓喜だのと云うように区分するのが間違って居る。世の中に純粋の悲哀だの、滑稽だの、乃至歓喜だのと云うものが存在する筈はないのだから。