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こんじきのし

金色の死

谷崎 潤一郎

「東京朝日新聞」1914(大正3)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 页

青空文庫

十

」

「芸術は性慾の発現也。芸術的快感とは生理的若しくは官能的快感の一種也。故に芸術は精神的のものにあらず、悉く実感的のもの也。絵画彫刻音楽は勿論、建築と雖も亦其の範囲を脱することなし。」

「希臘人は肉体美の一要素として、体格の大なることを数えたり。優れたる芸術は皆多大なる質量を有す。」

其の外まだ彼の病的な芸術観を窺うに足る可き、いろ/\の警句が認めてありました。

十

朝日の登るが如く文壇に飛翔し始めた私の盛名に対し、岡村君はそれ程妬みも羨みもしないようでした。けれども彼は自分の芸術観の上から、私の試みて居る努力が全く無意味であると信じて、少しも喜んで居ないことは確でした。私は一面に彼を軽蔑しながら、一面に彼の存在を恐れて居ました。彼の顔を見ると、何だか自分の現在の仕事が甚だ不安定で、盲目的であるような気がするのです。「彼は生涯何事も為出来さずに終るかも知れない。しかしやっぱり彼は天才である。」私はそう云う風に考えさせられました。

私が間断なく働いて居る間に、岡村君は間断なく遊び続けました。「学問を尊重する。」と云った最初の宣言はいつの間にか棄却されて、彼の豪奢と放蕩とは日に日に募るばかり、学校なんかへめったに出席しませんでした。