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こんじきのし

金色の死

谷崎 潤一郎

「東京朝日新聞」1914(大正3)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 页

青空文庫

二

孰れかと云えば、彼は数学を嫌い、読書を好みました。殊に彼の作文と来たら、最も上手とする所でしたが、それすら敢て私を凌駕する程ではなかったのです。文才に於て、彼と私とは抜群の誉を担いつゝ常に競争して居ました。試験の度毎に必ず私は全級の首席を占め彼は次席を占めました。二人は先生からも生徒からも、除け者扱いにされて居ました。随って、二人の交情は期せずして親密になり、お互に双方の長所を尊敬し合いつゝ、心私かに級中の劣等生を軽蔑して居たのです。

二

その後十年ばかりの間、岡村君は全然私と同じ歩調で同じ学歴を履んで進みました。丁度中学の五年になった年の春、私は彼に「卒業してから何処の学校へ這入るのだ」と訊ねて見ました。「勿論君と同じさ」と彼は言下に勇ましく答えたものです。私は中学の一年頃から、将来文科大学を卒業して、偉大なる芸術家になるのだと揚言して居たのです。

岡村君の数学に対する低能の程度はその時分からいよ/\顕著になり始めて、級中の席順なども首席の私よりは遥に下の方になりました。数学と云う数学は無論の事、物理とか、化学とか、凡べて数学の知識を要する種類の学課は、みんな岡村君の忌み嫌う所でした。