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こんじきのし

金色の死

谷崎 潤一郎

「東京朝日新聞」1914(大正3)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 页

青空文庫

十二

「いずれすっかり出来上ったら早速君に通知をするから、批評は其の時にしてくれ給え。僕は此れから半年ばかり、当分誰にも会わないで創作をするから其れ迄待って居て貰いたい。」―――

そうして岡村君は再び姿を隠しました。彼は今日東京に居るかと思えば、明日箱根に帰り、或は関西に行き、北国に走り、遠くは朝鮮、支那、印度あたり迄出張して、恰も忙しい商人のように諸所方々を旅行して居るようでした。其の間に彼は果してどんな創作を試みつゝあるのか、私には一向分りませんでした。

十二

「畢生の力を揮った僕の創作はとうとう出来上った。僕は自分で自分の作った芸術の美に打たれて恍惚として居る。此れこそ僕が多年頭に描いて居た理想の芸術だと信じて居る。正直を云えば、僕は僕の作った芸術をあんまり人に見せたくない。唯独で楽みたい。けれども君はよく僕の考えを理解してくれるし、嘗て約束した事もあるのだから、秘密を守ると云う条件で是非共見に来て貰いたい。君の都合さえ好かったら一週間でも十日でも箱根に滞在してくれ給え。」

普請の出来た明くる年の春、漸く此の通知を受け取った私は、半信半疑で兎も角も彼を尋ねて見ようと思い立ちました。