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こんじきのし

金色の死

谷崎 潤一郎

「東京朝日新聞」1914(大正3)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 页

青空文庫

十四

あれが僕の創作の一つだ。」

と、岡村君は始めて云いました。

私達が、「沐浴」に関する古来の有名な彫像に囲繞された浴室の入口へ着いたのは、もう日が暮れてから余程過ぎた時分でした。広大な堂宇の内部には既に電燈が煌々と灯されて居るらしく、其光線が円い硝子張の天井を徹して夜の空にあか/\と反射して居ました。門の扉に耳を付けると、中では幾十人の人々が海豚の如く泳いで居ると見え、盛んに湯水のぴしゃぴしゃと跳ね上る音が聞えるのです。

十四

扉を開けて這入って行った私は、暫く燦爛たる光と色と湯気との為めに瞳を射られて茫然として立ちすくみました。湯槽は大理石の床を地下へ三四尺切り下げたもので、槽と云うよりも池と云った方が適当な程の広さでした。池を取り巻く四方の壁は羅馬時代の壁画や浮彫で一面に装飾され、楕円形を成した汀の床のところ/″\には、又しても例のケンタウルが一間置きぐらいに並んで居るのです。而も其の顔は凡べて岡村君の泣いたり笑ったり怒ったりして居る容貌を持ち、背中に跨って鞭撻って居る女神達は、悉く生きた人間ばかりでした。海豚の如く水中に跳躍して居る何十匹の動物を見ると、其等は皆体の下半部へ鎖帷子のような銀製の肉襦袢を着けて、人魚の姿を真似た美女の一群でありました。