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こんじきのし

金色の死

谷崎 潤一郎

「東京朝日新聞」1914(大正3)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 页

青空文庫

彼の邸に雇ってあった医師の説明に依ると金箔の為めに体中の毛孔を塞がれて死んだのであろうと云う事でした。

菩薩も羅漢も悪鬼も羅刹も、皆金色の死体の下に跪いて涙を流しました。其の光景は其のまゝ一幅の大涅槃像を形作って、彼は死んでも猶肉体を捧げて自己の芸術の為めに努力するかと訝しまれました。私は此のくらい美しい人間の死体を見た事がありませんでした。此のくらい明るい、此のくらい荘厳な、「悲哀」の陰影の少しも交らない人間の死を見た事がありませんでした。

岡村君はたしかに幸福な人間でした。何故かと云うのに、彼は自己の全力、全身を挙げて自己の芸術の為めに尽し、而も十分な成功を遂げたからです。世の中には彼よりも多くの財産を持ち、多くの学識を持った人は沢山あるでしょう。然しながら古来彼程真面目に、彼程単一に、自己の芸術の為めに突進した者はないと云ってもいゝでしょう。彼と私とはさま/″\な点で芸術上の見解を異にして居ましたが、要するに彼の仕事はやっぱり立派な芸術であったことを認めない訳には行きません。彼の芸術は幻影の如く現れて、彼の死と共に此の地上から消えて了いました。