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きんぎょはしんでいた

金魚は死んでいた

大下 宇陀児

「宝石九月号」岩谷書店、1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,514 字 · 22 页

青空文庫

私は、癪だから、三匹でせいぜい五千円というランチュウを、三万円だとふつかけて持つて行つたんですが……」

「老人は金魚が好きだつたのかね」

「どうですかね。あんまり好きでもなかつたでしよう。しかし、行つてみると、尺五寸ほどの瀬戸の鉢が、庭の土にいけてあつて、その鉢は、からつぽだけれど、水だけはつてあるし、ぐるりに、白い砂をきれいにまいてあつて、かなり大切にして金魚を飼うつもりだつてことはわかりました。なんでも、生き物というものは、一度もまだ飼つたことがない、この金魚がはじめて飼う生き物だなんていいましてね。私は、これじやいけない。雨水がはいらないようにしたり、日よけも作り、猫の用心で、金網もあつた方がいいつてこと、注意しておいてやつたんですが、どうしました、あの金魚は、まだ元気ですか」

「元気じやないよ。老人といつしよに死んでしまつた。老人が口から吐きだした青酸加里で死んだのさ」

「あんれま、もつてえねえことしましたね。それじや、あの金魚は私が持つて行つてから、まる一日とたたねえうちに、死んでしまつたことになりますね」

「まる一日……というと、金魚をもつて行つたのはいつのことだね」