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きんぎょはしんでいた
金魚は死んでいた
大下 宇陀児
「宝石九月号」岩谷書店、1954(昭和29)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,514 字 · 22 页
果して島本は、とくに注意はしなかつたけれど、金魚を見たつていいました。そして、ひらひらしていて美しかつた、といつたんです」
「わかつたよ。わかつたが、それがどうしたんだね」
「島本の話では、ぼたんの鉢を持つてきたのが、事件発見のあの日、つまり五月六日からいうと、一昨日だといつたんじやないでしようか。その時以来、老人には会わなかつたということもいつたはずです。ところが金魚があの土にいけた鉢の中へ入れられたのは五月五日、お節句の朝だということがわかつたんでしよう。六日からいつて一昨日は、つまり、五月四日にあたりますね。その時には、鉢の中に、金魚がいなかつたのじやないでしようか。
いない金魚を、島本は、なぜ見たんですか。いや、たしかに、見たはずはないんです。それを、私に、ひらひらしていたなんていつて……」
まわりくどい話しぶりだつたが、はじめて井口警部にも、このことの重大な意味がわかつてきた。
島本医師は、嘘をいつている。
金魚が死んでいたのを見て、多分その金魚は、前から飼つてあつたものだと考えたのであろう。まだ鉢に入れられていない金魚を、見たといつて話したのである。