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はちのき

鉢の木

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,534 字 · 28 页

青空文庫

髪はむぞうさに結んで背に垂れている、どこに一つ年頃のむすめらしい彩りもなく、あわれなほども貧しいなりかたちなのに、やわらかく緊った頬や、ふっくりと二重にくくれた顎や、なめらかにすんなりと伸びた手足の膚は、溶けてしまいそうなほど匂やかに艶つやしい、三年にわたる貧窮の暮しも、萠えいでる若い命は抑えることができなかった、現在の身の上が暗澹たるものであるだけなおさら、花期をあやまたぬいのちのふしぎさが四郎兵衛の眼を瞠らせたのであった。「……そのようにごらんあそばしてはいやでございます」萩尾は羞かしげに片手を頬へ当てた、「なにか付いてでもいるのでございますか」「もういいからおあがり、お疲れだったろう……」いつになく労りの言葉を与えながら四郎兵衛は小刀を取った、妹の美しさは眼をおどろかしたが、それはすぐに胸を苦しめるものだった、――この美しさも結局は実をむすばずに終るのだ、そういう気持がつきあげて来て、呻きだしたいほど鋭く心を突刺すのである、かれはのしかかってくる苦悶とたたかうかのように、ひたすら箭竹を削りはじめた。

壱式四郎兵衛はもと鳥居元忠の家来だったが、三年まえ彦右衛門元忠の意にかなわぬ