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なべしまかいのかみ
鍋島甲斐守
吉川 英治
「オール讀物」文藝春秋、1936(昭和11)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,322 字 · 23 页
和解いたすのか、せぬ気か、はっきりとお答えせいっ』
白洲には、七、八人の町人が、干鰈のように平伏していた。真中に出ている二人が公事の当人達であろう。一方は、六十ぢかい品のよい老婆で、小紋の小袖につつましく前帯をむすび、しきりと、涙をふいている。
又、もう一方のほうは、四十五、六歳の小づくりな町人で、これも至って、気の小さい温醇な男らしく、どこかに持病でもあるのか、艶のない黄ばんだ皮膚をしていて、細い眼のうちが薄黒く見え、その眼は絶えず、俯目になって、恟々していた。
甲斐守が怒りつけたのは、その男へであった。
うしろの方に控えていた双方の町名主と付添人たちは、びくっとして、金貸の彦兵衛が、何う答えるかと、唾をのんで見まもっていた。
『……へいっ』
彦兵衛は、肉の薄い体を腰から折って、奉行のほうを額ごしに見ながら、米搗ばったを繰返して答えた。
『……ヘイ、まことに、御尤様でございまする。仰しゃるとおり、重々、御尤ではございまするが』
甲斐守は、焦々して、
『埓の明かんやつだ。その御尤さまをやめにせい。公事の御吟味について、こちらで訊くことだけを答えればよいのじゃ。