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ながさきのかね
長崎の鐘
永井 隆
「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页
しゃがんで撫でてみると人間。べっとりと血らしいものが手のひらについた。腕を伝わって手首を握ってみると、脈はない。かわいそうに、橋本君は合掌をして、そこからまた二、三歩行くと、またも倒れている人につまづいた。髪がぬらりと手首にねばりつく。まだあたりは真っ暗だ。この闇の、私のまわりに一体何人死んでいるのだろう。橋本君は脈をさぐりながら見えぬ目を開いて、あたりを見回した。
突然ぽうと赤くなった。窓の外で火が燃えだしたのだった。ちろちろと炎は次第に大きくなる。そのうす赤い火に照らしだされた目の前の光景は! 橋本君は思わず死人の脈を手放して突っ立った。広い病院の廊下に赤い逆光線を受けて、転がっている人の肉体。うつ伏し、横ざま、あおむけ、膝をまげているのもあり、虚空をつかんでいるのもあり、立とうともがいているのもある。橋本君はこれは独力では手がつかぬ。まず救護隊が集まり、組織的な団体活動でなければだめだと悟った。それではとにかく皆を部長先生の埋まっている所へ集めよう。ご免ね、ご免ね、とことわりをいいながら死人をとび越えて、階段を透視室へと下っていった。
透視室の連中はレントゲン透視台を組み立てている最中だった。