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いんじゅう
陰獣
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页
そんな風に眼の前が暗くなり、この世が変なものに思われて来るのだ。
そんな訳で、私はこの記録を今直ぐ発表する気はないけれど、いつかは一度、これを基にして私の専門の探偵小説を書いて見たいと思っている。これは謂わばそのノートに過ぎないのだ。やや詳しい心覚えに過ぎないのだ。私は、だから、これを正月のところ丈けで、あとは余白になっている古い日記帳へ、丁度長々しい日記でもつける気持で、書きつけて行くのである。
私は事件の記述に先だって、この事件の主人公である探偵作家大江春泥の人となりについて、作風について、又彼の一種異様な生活について、詳しく説明して置くのが便利であるとは思うのだけれど、実は私は、この事件が起るまでは、書いたものでは彼を知ってもいたし、雑誌の上で議論さえしたことがあるのだけれど、個人的の交際もなく、彼の生活もよくは知らなかった。それをやや詳しく知ったのは、事件が起ってから、私の友達の本田という男を通じてであったから、春泥のことは、私が本田に聞合せ調べ廻った事実を書く時に記すこととして、出来事の順序に従って、私がこの変な事件に捲き込まれるに至った、最初のきっかけから筆を起して行くのが、最も自然である様に思う。