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いんじゅう
陰獣
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页
つまり、六郎氏は、一冊の「屋根裏の遊戯」によって、一方では彼の病癖のこよなき知己を、一方では彼にとっては憎むべき昔の恋の仇敵を、同時に発見したのです。そして、その知識に基いて、実に驚くべき悪戯を思いついたのであります。
静子の独居の隙見は成程甚だ彼の好奇心をそそったには相違ないのですが、惨虐色情者の彼が、それ丈けで、そんな生ぬるい興味丈けで、満足しよう筈はありません。鞭の打擲に代るべき、もっと新しい、もっと残酷な何かの方法がないものかと、彼は病人の異常に鋭い空想力を働かせたものでしょう。そして、結局平田一郎の脅迫状という誠に前例のないお芝居を思いつくに至ったのであります。それには、彼は已に「新青年」第六巻十二号巻頭の写真版の御手本を手に入れて居りました。お芝居をいやが上にも興深く、誠しやかにする為に、彼は、その写真版によって丹念にも春泥の筆蹟の手習いを始めました。あの写真版の鉛筆の跡がそれを物語って居ります。
六郎氏は平田一郎の脅迫状を作製すると、適当な日数を置いて、一度一度違った郵便局からその封書を送りました。商用で車を走らせている途中、もよりのポストへそれを投込ませるのは訳のないことでした。