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ようきなきゃく

陽気な客

山本 周五郎

「苦楽」苦楽社、1949(昭和24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,086 字 · 46 页

青空文庫

五

彼には……その頭脳の中には……幾つかの大きな長篇小説と幾十篇かの戯曲の構想がすでに完結しているのであった。

「やろう、きみ。おれもライフ・ワークを始める時期には時期なのさ、為すべきものを持っていて為さないのは罪悪だ、われらの旗を掲げよう」

五

――これらのあいだにおれは彼について多くのことを知った。仲井天青はジャーナリズムから消えて以来、浅草のなにがし座で文芸部長をやったり、他の劇団のレパートリイ顧問になったり、また喜劇一座と旅まわりもしたものらしい。……その頃に細君とは別れて、浅草のなに太郎とかいう名妓に恋され、その名妓は彼のために身ぬけとかいう冒険を敢えてして結婚し、旅まわりなどにもいっしょに付いてまわったのであるが、現在、彼女は元の土地の浅草で、ある格式の高い待合茶屋の女中がしらをしながら、彼の呼びよせるのを待っているということだった。

「だがぼくは彼女を呼びよせる気はない、ぼくは今そんな安楽なことなんぞ考えちゃいないんだ」

天青はおれになんどもそう確言した。

「ぼくの野心はそんなちっぽけなものじゃないさ、この野心のために汚濁と絶望と貧困を耐えしのんで来たんだ、ぼくは人情的であるわけにはいかない、彼女は彼女として、……ぼくは雑誌の題を人間芸術ときめようと思う」