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ようきなきゃく

陽気な客

山本 周五郎

「苦楽」苦楽社、1949(昭和24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,086 字 · 46 页

青空文庫

「とにかくそこはお互いになんでございますもの、気楽にして遊んでらっしゃいませな」

夫人もこう云ってくれたんだ。

「あたくしもこんな性分なんでございますから、そこはまたなにかとあれでございますし、本当に自由なお気持で、文学の方面のことなどなさいませよ」

鼻にかかったような声で、片方の手でうしろ髪のところを触りながらこう云ってくれたもんなんだが、おれとしては気楽な気持なんていうわけのものじゃなかった、文学の方面なんぞというようなそんな問題じゃないんだ。……それで神戸夜話社という怪しげな雑誌社へはいった。怪しげというか、いかがわしいというか、どっちかといえばやけくそみたような雑誌であり、雑誌社であったものさ。

――その社は元町通りと栄町の電車通りとをつなぐ狭い横丁の喫茶店の二階にあった。もちろん古い木造の日本建築で、表に面した六帖二間をぶっとおして、古畳の上に机と椅子を並べたのが編集室なんだった。窓は関西地方によくあるたてしげ格子が篏っていたし、庇は深く垂れているし、横丁を隔てた向うも同じような二階家で、できるだけ日光や通風を妨害するような仕掛になっているから、暗いのとじめじめする点では苦情を云うところはなかった。