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あめあがる

雨あがる

山本 周五郎

「サンデー毎日涼風特別号」毎日新聞社、1951(昭和26)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,794 字 · 43 页

青空文庫

六

こんどは少し暇がかかった。どちらも黙っているし、びくっとも動かない。ただ伊兵衛がずんべらぼうとしているのに、鍋山の五躰はしだいに精気が満ち、その眼光は殺気をさえ帯びてくるようであった。そうしてかなりの時間が経つうちに、鍋山の木刀の尖は悠くりと、眼に見えぬくらい緩慢な動きで、少しずつ、少しずつすり上り、いつかしら、やや低めの青眼に変った。

機は熟したようだ。緊張は頂点に達し、まさに火花が発するかと思えた。

そのとき伊兵衛の木刀が動いて、相手の木刀をひょいと叩いた。ごく軽く冗談のようにひょいと叩いたのであるが、相手の木刀は尖端を下に向けて落ち、ばきっといったふうな音をたてて床板に突立った。

「あ、これはどうも」伊兵衛はうろたえて頭に手をやり、「――どうもこれは、とんだことを致しました、大事な道場へ傷をつけてしまいまして、これはなんとも、どうも」

そして突立った木刀を抜いて、穴のあいた床板を済まなそうに撫でた。

鍋山又五郎は惘然と立ったままだった。

六

伊兵衛は日が昏れてから宿へ帰った。

たいへん上機嫌で、酒に赤くなった顔をにこにこさせて、これは戴いた土産だと、大きな菓子の折を妻に渡した。