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あめあがる
雨あがる
山本 周五郎
「サンデー毎日涼風特別号」毎日新聞社、1951(昭和26)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,794 字 · 43 页
まるっきり捉まえどころがない。逞しく厚い肩を少し前跼みにして、木刀を前へつき出して、尻下りの眼でものやさしげに相手を眺めている。うっかりすると睨めっこでも始めそうな恰好だった。
原田青年が鋭く叫び、非常な勢いで躯ごと打ち込んだ。小柄な躯がつぶての飛ぶように見えた。が、伊兵衛はただ爪尖で立って、木刀をすっと頭上へ挙げただけである。原田青年はすっ飛んでいって道場の羽目板へ頭でもって突き当り、独りではね返って、ぶっ倒れて、だがすぐ半身を起こして、ちょっと考えて、「まいった」と叫んだ。
「どうも済みません」伊兵衛は恐縮そうにおじぎをした、「――失礼致しました」
次は鍋山又五郎という三十六七の男で、これはおそらく師範役であろう。静かな眼になみなみならぬ光りがあり、態度も沈着で、隙のないおちつきをみせていた。
「少し荒いかもしれません」鍋山は平静な声でそう云った、「――どうかそのおつもりで」
「は、どうかなにぶん、よろしく」
伊兵衛は気軽くおじぎをし、まえと同じ構えで、まえと同じようにものやさしく相手を見た。鍋山は左の足をぐっと引いて半身になり、木刀の尖を床につくほど下げ、(地摺り青眼とでもいうのか)凄味のある構えで、じんわりと伊兵衛の眼に見いった。